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螺子とランタン 桂明日香

2008年10月20日 23:58

螺子とランタン1螺子とランタン2

少年誌にて連載された少女漫画(っぽいもの)第2弾。
「BLOOD+」のコミック版や「ハニカム」の作者と言えばお分かりになるでしょうか。
分からない人はググろう。
ググるのが面倒な人はこちら
(桂明日香さんのホームページ[ad lib])

桂明日香さんのデビュー作にして傑作「螺子とランタン」をご紹介。
苦学生の家庭教師と侯爵家令嬢の心の交流を描いた物語です。
(カバー絵は2008年5月末より上図右に変更された様子)

スラム育ちだが、成長して実父である男爵の家に引き取られたニデル。学問に励み、持ち前の勤勉さから優秀な成績を残すが、その身の上故にスクールでの扱いは凄惨なものであった。
そこへ侯爵家令嬢・ココの語学講師として家庭教師に雇われた彼は、「学問で成り上がる」ことを目的に、ココを出世のため利用しようと目論む。
しかし実際侯爵家へと出向けば、教える相手は両親が事故で他界し、幼くして爵位を継いだ"女侯爵"。
親に甘えたい、まだまだ遊びたい盛りのココに対し、ニデルは心を乱し、不器用ながらつい甘やかしてしまうのであった。

ニデルはスラム育ちであることに劣等感を持っている。
ココは侯爵として振舞うことに自信がない。
大人と子供の差はあれど、二人はお互いの隙間を埋め合うようにして心を通わせていく。

傍目から見るとココが一方的にニデルに甘えているようにも見えるが、ニデルはニデルで確かにココのことを大切に思っている。
その二人の間に割り込んでくるのは、ニデルのスラム仲間で侯爵家の新米女給・ノラ。
そしてニデルの弟で男爵家正妻の長男・アーサー。

子供の頃からニデルを弟子扱いして引っ張りまわしてきたノラの登場により、ココは気が気でない。ニデルとノラには共有するたくさんの思い出があり、気安く慣れ親しむ二人を見てココは心取り乱すのであった。一方、ニデル大好きですっかり感情移入もし終わっているノラは、ぽっと出のココにニデルを取られたことで涙を流す。
そしてニデルに対抗するアーサーもまた、ニデルと同じく心臓の弱い己の体に劣等感を抱いていた。優秀で且つ健康な肉体を持ち、実父である男爵からも「爵位はニデルに継がせたい」と口にされている。その上でニデルに気遣われ、彼の劣等感は胸の奥まで染み渡っていた。何かにつけてニデルに因縁をつけ、対抗し妨害を企てるアーサー。


嫌われ役に甘んじるアーサーだが、嫌いになれる人物ではない。
憎まれ口しか叩かないものの、ニデルとココの仲が崩れそうになれば苦言の中に助言を混ぜる。自らの引き際を知り、周囲に憎まれたまま言い訳もせず潔く退場する。
さらに言えば、彼も物語の中で実らぬ恋に迷う一人であり、秘め続けるその態度に哀愁を覚える。
物語中で一番損な役割を与えられた彼を、憎めようはずもない。

もちろん、主要人物であるニデルとココの淡~い心の揺らぎこそこの物語の真骨頂である。
というか、無邪気なココが可愛い。
ニデルのために頑張って、褒められたら素直にうれしい。ニデルを人にとられれればやはり嫌な気持ちになる。ニデルになにかあれば心配する。
裏切られたと思って拒絶してしまうこともある。
それでも、最後に「大好き」な気持ちを捨てきれず、ココはニデルを抱きしめる。

子供らしくお馬鹿で、どこまでも邪気のない彼女に暗い悩みは払拭されてしまう。厳しい貴族社会の中に現れた清涼剤のような少女。彼女のおかげで、ニデルの心は救いを得た。それはココにとっても同様で、大切な人がいることで彼女は少しずつ成長していけるのだ。


蛇足かもしれないが、色眼鏡をかけて読み直すと、桂明日香作品は鍛え抜かれたフェチズムが醸し出されている気がする(それは英国ロマンスを描いた森薫さんの「エマ」とは別路線で)。
マニアックと言うか、一部の人の心を鷲掴むと言うか。しかもネタによって「一部」を指す方向が多岐に渡る。読んでいてニヤニヤ。そんな通好みのポイント満載。
一例としては、侯爵家の執事さん。
彼は寡黙で厳しく、冷静で優秀、隙がない。冷たい感じを読者に持たせる、典型的な"使用人"としての完璧な執事。
それは、風邪を引いたら紅茶にジャムを入れて気遣うような、自嘲に一言感想を応え心の傷に薬を塗るような。飴と鞭を使い分け、調整と矯正を加えるそのさり気無さ。そこまでを含めての、完璧な執事。


1冊完結の作品ながら、その1冊に桂明日香作品の魅力が凝縮されている1品。
心に残って読み返したくなる。
読み返してまた面白いと感じる。
正に傑作です。





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