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プシュケの涙 柴村仁

2009年01月13日 21:50

プシュケの涙

「導き出した真実は、残酷なまでに切なく、身を滅ぼすほどに愛しい」
少女は何故自殺したのか。
一人はそれを否定するため、一人はそれを真実にするため共に自殺の謎を追う。
「我が家のお稲荷さま。」でお馴染み柴村仁さんが送る悲恋の物語、「プシュケの涙」の発売です。

「我が家のお稲荷さま。」はもう出ないのか。
新シリーズ「ぜふぁがるど」の続編はどうした。
などと野暮な事も考えはしましたが、柴村仁さんの約1年ぶりの新刊です。まず買ってみて一読し、内容を吟味し、然る後に評価しましょう。

まずは表紙をご覧ください。
手を繋ぐ2人の人物。背中から落ちていく少女と、頭から落ちていく少年。彼らは暖色系の色に瞬くような光で塗られています。ほんのりと暖かみのある、希望、もしくは恋心のような想いが見て取れます。
その背景には、白地に淡い配色で重ねられた寒色系の蝶達。表紙右にはこれも寒色系で書かれたタイトル、その中の「涙」の字も手伝い、全体的に寂しい・切ない感じが現れています。

これだけでも悲劇の結末が予測されます。しかし、人物中に見る暖かみから、悲劇の内の幸福も見ることが出来ます。

心して読みましょう。
じわじわきます。


物語は大きく前半と後半に分かれています。
前半は自殺した少女の死に疑念を持った少年・由良が、飛び降りた瞬間を目撃した少年・榎戸川を巻き込み「彼女は本当に自殺したのか」を暴く話。
後半は転校してきたばかりの少女が不遇を嘆いて孤軍奮闘するが、やがて見つけた味方に心癒され、喜びを見つけ、幸せを手に入れる話。

聞いただけではあまりに隔たりのある2つの物語を繋ぐものがプシュケ。
ギリシア神話をご存知の方には説明するまでも無い単語でしょう。
プシュケとはギリシア語で「心」・「魂」を意味する言葉。また、魂の象徴は「蝶」であり、これこそが物語を繋ぐ鍵となります。


自殺した少女の名は吉野彼方。彼女は死ぬ直前まで蝶の絵を描いていました。
それをリクエストしたのは由良。吉野と同じ美術部所属。彼女の描く綺麗な絵を見続けた彼が、思いつきで「蝶を観たい」と言ったから、彼女は蝶の絵を描き始めました。彼が彼女の死について固執し、自殺で無いことを証明しようとした理由の一つがそこにあります。また、彼女の事を調べ、叶うならば描きかけの絵を自分の手で完成させたいとの願いもありました。
その由良の行動に巻き込まれ、住居侵入まで犯して追従させられたのが前半の主人公・榎戸川。
彼には想いを寄せる相手がいて、間接的ながらもその子のために、ただそれだけを考えて行動していました。報われないと知りながら。
前半は2人の想いが行動として交わり、やがて真相に至る物語。
それはキャッチフレーズにある通りの「残酷なまでに切なく、身を滅ぼすほどに愛しい」真実。

後半は一転して少女の苦悩を描いた物語。ここでも登場する由良は、生来のしつこさで彼女の名前が益田水衣であることを知ります。母は過労で倒れ、家に帰れば実父に金を無心され、学校では誰とも仲良くなれず、更に由良という変人に追いかけられる日々。しかも由良は顔だけは美形であるため、彼に懸想する少女からは攻撃を受ける羽目に陥ります。
しかし、その境遇から救い出してくれた味方もまた、由良でした。


2つの物語を繋ぐのはプシュケ。
心を込めて描いた蝶の絵。
花しか描かなかった吉野彼方が、感謝の気持ちを込めて描いた花束代わりの蝶の絵。
しかし、その絵を描いていた吉野彼方は、完成を待たずして、シャボン玉のように落ちて消えてしまった。蝶の絵と同じく、泡沫のように。

由良は物語中では軽薄で質の悪い冗談ばかり言う人物です。

「……由良はさぁ、吉野が自殺した理由が、そんなに気になる?」
「うん」
「どうして? 同じ美術部だったからって、それだけの理由で? それとも、他に何か……」
「吉野彼方は、俺の許婚だった」
「はぁ!?」
「冗談だよ」

軽薄な会話の1シーン。けれども、読み返すとこの言葉には、馬鹿に出来ない重みがあります。

主役ではないけれど、この物語は変人と評される由良の恋物語。
前半を通して書かれているのは、彼がどれほど吉野彼方を思っていたか。
後半を通して書かれているのは、彼女の死がどれほど深く重いトラウマを刻んだか。


余韻に浸る時間を持って読まれることをお勧めします。
読了後、間を置いて再読されれば尚良し。
切なさが染み渡ります。





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