--年--月--日 --:--

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

【新釈】走れメロス 他四篇 森見登美彦

2008年12月25日 23:59

【新釈】走れメロス

京都と京大と四畳半の部屋を舞台に男達のむさ苦しくも汗臭い物語を得意とする著者が、日本文学の名作を題材に記した物語「【新釈】走れメロス 他四篇」をご紹介。

題材となった作品は表紙に読める通り、以下の5作。

・三月記
著者は中島敦。清の「人虎伝」を元に、ある男の自尊心と捨てきれない執着から生まれた悲劇を描く。

・藪の中
著者は芥川龍之介。「今昔物語集」の説話を元にした、ある殺人事件に対する7人の男女の証言や告白を書く。物語は迷宮入りし、転じてその事を「藪の中」と呼ぶようになった程の作品。

・走れメロス
著者は太宰治。ドイツの古典主義作家フリードリヒ・フォン・シラーの詩『人質』を元にした、人質となった友人のために昼夜を走り己の死刑の場に戻り、暴君ディオニス王に信じる心を取り戻させるという感動話。

・桜の森の満開の下
著者は坂口安吾。桜の花の下では人の気が触れる、と恐れられていた時代、ある山賊が魔性の女と出会い、彼女の言うままに犯罪を犯し、最後には女共々消えてしまう……らしいのですが、ごめんなさい、原作読んだ事無いです。

・百物語
著者は森鴎外。百物語の集いの場に呼ばれた森鴎外自身が、主催者である飾磨屋と言う男について想像し、観察し、考えると言う話。

「桜の森の満開の下」は未読であるため原作との比較が出来ませんでしたが、その他の話は元となった話を踏襲し、もしくはパロディー化して森見登美彦節に改変されていました。
この物語を読めば、各々の原作の輪郭がぼんやりと見えてきます。


舞台もさることながら、時間的にも著者の他作品(「四畳半神話大系」や「夜は短し歩けよ乙女」など)と同じ、もしくは近い時期のお話であることが、映画サークル「みそぎ」に城ヶ崎が所属している事や、文化祭に「象の尻」が出展されていることから見て取れます。
と、いうことで読んでいると天狗やら図書館警察やらゲリラ演劇やら見聞き知った言葉が出るわ出るわ。過去作品との関連が読み取れるのでなんだか楽しくなってきます。

とはいえ、コメディー色全開なのは表題の「走れメロス」のみ。その他の作品はいずれも、原作の雰囲気に包まれた物語構成となっているため、シリアス色が強く押し出されています。

山月記では詩の代わりに小説を書くことに執着した男が、山の中で天狗を自称し人に唾吐いて孤独に生きる様を書いています。

藪の中では殺人事件も迷宮入りも起こらないものの、7人の証言を以って物語が構成されている点は同じです。しかし、最後の証言者である映画の撮影者兼監督が、原作の物語では妻を盗人に手篭めにされ殺されてしまう役どころのはずである彼こそが、自分の恋人とのその元彼の過去を題材に縒りを戻す脚本を書いたことに衝撃を受けました。
彼の中にはある種の自虐的な歪んだ愛情があることはもちろん、それでも恋人を愛し、愛しすぎていることが伝わってくる物語です。

桜の森の満開の下は先にも述べた通り原作未読なのですが、桜の木の下で出会った女性と恋仲となり、彼女のおかげで成功したものの、最後には全て失う空虚さを確かに感じました。原作にもこの虚無感があり、それを元に、それを目指して書かれた作品だと言う事が伝わってくるようでした。
とか書いといて、原作の話が全然違ってたらどうしよう。

百物語では、原作と同じく筆者である森見登美彦氏自身の視点で書かれた物語です。
これについては原作含めて、実は読み解けていないです。有体に言うと分かんなかったです。
ただ、原作では暇を得た時期が丁度良かった事、主催者である飾磨屋という傍観者が「やはり多少人を馬鹿にしている」と断じているのに対し、こちらでは「あれからが面白かったのに」と友人に残念がられ、主催者の鹿島と言う男をぼかして書くことで不思議な、あるいは不気味な物語の余韻を愉しませてくれます。
百物語という怪談を題材に選んだ作品として、森見登美彦氏の余韻の記し方に「ほぅ」と溜息を漏らして感心させられました。


そして表題作である走れメロスについてレビューを行うわけですが、これがもう、ひどい。
この一作が載っていただけで買う価値有りと思わせる程のひどい改編。「走れメロス」をここまで崩しますか、と。
表紙で見て取れるように、各話にはそれを象徴するアイコンがあるのですが、
・「山月記」のペンと原稿用紙
・「藪の中」の雨傘
・「桜の森の満開の下」の乙女
・「百物語」のろうそく
に対して、「走れメロス」では事もあろうに「ピンクのブリーフ」。しかもこれが紛うことなき作中での重要アイテム。
そして妹の結婚式に出るため親友・セリヌンティウスを人質に差し出し、必ず戻ると約束した原作に対し、こちらではいもしない姉の結婚式と偽って親友・芹名雄一を人質として差出し漫画喫茶で「北斗の拳」を読み耽るといった有様。そして友人芹名をして

「俺の親友が、そう簡単に約束を守ると思うなよ」

と言わしめるはちゃめちゃ振り。読んでて自分のの頭がおかしくなったのかと思いました。

今の今まで主役になることのなかった詭弁論部ですが、この無茶苦茶加減は何なのでしょう。

「芹名・俺を殴れ」
「ちょっと手加減して殴ってくれ」

「芽野。俺を殴れ。同じくらい手加減して殴ってくれ」

己の軟弱さを恥じてお互いに殴りあう二人ですが、発言が既に軟弱。

真面目で重い話が続く中、異様な程浮いている表題作「走れメロス」。
もちろんパロディーでコメディーなので、一番読みやすく一番面白いです。深いところは全然無いんですけどね。


「夜は短し歩けよ乙女」で可愛らしい黒髪の乙女視点での柔ら可愛い話を書いた著者のイメージが一瞬で男臭い「四畳半神話大系」の時代に戻される本作。
買って良かったと思わせる良作でございました。

さあ、次はどの森見登美彦作品を読もうかな。





コメント

    コメントの投稿

    (コメント編集・削除に必要)
    (管理者にだけ表示を許可する)

    トラックバック

    この記事のトラックバックURL
    http://questmys.blog64.fc2.com/tb.php/176-f9f546c0
    この記事へのトラックバック



    上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。